本サイトは前立腺がんの患者さんとそのご家族を対象としています。

前立腺がんの治療〜薬物療法〜

薬物療法とは

男性ホルモンの分泌や取り込みを阻害する内分泌療法が中心で、手術効果が薄れて、がんが再燃した場合は抗がん剤(化学療法)を使います。

男性ホルモンを抑えてがんの進行を抑制する内分泌療法

前立腺がんは男性ホルモン(アンドロゲン)の影響を受けて発生し、進行するホルモン依存性がんです。逆にいえば、男性ホルモンがなければ増殖できません。この特性を利用するのが、内分泌療法(ホルモン療法)です。手術で精巣を除去する方法もありますが、一般には薬物で男性ホルモンを抑制します。

最も多く使われるのは、LHRHアゴニストというホルモン注射薬です。この薬は脳下垂体に働きかけて、精巣からのホルモン分泌を抑制します。ただ、男性ホルモンは精巣のほかに、少量ですが副腎でもつくられます。LHRHアゴニストだけでは不十分と判断された場合は、前立腺の男性ホルモン取り込みを遮断する抗アンドロゲン剤の内服を併用します。

2012年にはGnRHアンタゴニストも承認されました。LHRHアゴニストと作用機序は少し異なりますが、同じく男性ホルモンの分泌を抑えます。

副作用としては、急な発汗やホットフラッシュ(のぼせ)など女性の更年期障害に似た症状が頻出するほか、体重増加、乳房痛などもみられます。性機能も障害されます。

主な対象は転移のある前立腺がん

内分泌療法は効果の高い治療法ですが、続けているうちに効果が薄れてきます。抑え込まれていたがん細胞が、男性ホルモンがなくても増殖する性質(去勢抵抗性)を獲得して、再び活動を始めるからです(再燃)。去勢抵抗性前立腺がんに対しては、抗がん剤、女性ホルモン剤、ステロイドなどが用いられますが、これらも効果には限界があります。

内分泌療法は根治療法ではなく、すでに転移している場合が主な対象です。しかし、高齢、持病のため手術や放射線療法が困難などの理由で、早期でも内分泌療法を選ぶ例もあります。治療開始から再燃までの期間には個人差があり、場合によっては10年近く再燃しない状態を維持できます。

臨床試験とは

新しい薬や治療法の人間に対する有効性や安全性について調べるために行われるのが「臨床試験」です。現在、使われている薬や標準治療は、国内外で臨床試験を重ねることで開発、確立されたものです。

臨床試験には、数人を対象に適切な投与量を決める「第Ⅰ相試験」、数十人を対象に効果と安全性をみる「第Ⅱ相試験」、数百人を対象にすでに承認されている薬と新薬の候補、あるいは、標準治療と新治療の候補を比較して効果と安全性をみる「第Ⅲ相試験」の3段階があります。

臨床試験は医療の発展に不可欠であり、試験への参加は将来の患者さんを助けることになります。ある程度よいとわかっている薬や治療法が早く使える利点がある場合もありますが、予期せぬ副作用が出る危険性もあります。臨床試験への参加を依頼されたときには、試験の段階、目的と方法、利点やリスクをよく確認することが大切です。