本サイトは前立腺がんの患者さんとそのご家族を対象としています。

前立腺がん患者さんに伝えたいこと
01 コラムの連載を始めるにあたって

11月から新しく始まる本コラムは、NPO法人腺友倶楽部(前立腺がん患者・家族の会)の理事長である武内(ひげの父さん)が、主に担当させていただく予定です。どうぞよろしくお願いします。

前立腺がんの情報発信ということは、これまでもやってきたことではありますが、細部を教科書的に解説するのではなく、前立腺がんを取りまく状況全体を見渡しながら、患者にとって特に重要と思える話題にしぼり、順次、分かりやすくご紹介できればと思っています。

初回は、まずは私の病歴(プロフィール)と腺友倶楽部の活動についてお話しさせていただきます。

ひげの父さん自己紹介

前立腺がんの発覚は2004年の秋のことでした。前立腺がんの病状説明には次の3要素が大事です。これがすんなり言えると話が早いので、ぜひ覚えておいてください。(3要素についてはまた改めて説明する予定です)

  1. PSA(前立腺特異抗原)147
  2. ステージ(病期)T3N0M0
  3. GS(グリーソンスコア)9

PSAが3桁(147)というのは転移が濃厚と思える数値であり、生検では10カ所全てから悪性のがん(GS9)が見つかり、画像上浸潤が明白な局所進行がん(T3)。3要素すべてが高リスクという超高リスク前立腺がんでした。

転移がなかったのは幸いでしたが(N0M0)、医師は「画像に写らない微小転移がきっとある」と踏んでいたようです。最初の病院では手術は困難と言われ、セカンドオピニオンでは「5年生存率2割」というありがたくないお言葉も。今思えば「そんな馬鹿な」という思いもあるのですが、当時はショックで途方にくれ、不安症にも陥りました。

連日PCにすがりつき、3件目の病院で、やっとIMRT(強度変調放射線療法)という当時最新の放射線治療と出合います。5ヵ月間のホルモン療法の後、IMRTをほぼ2ヶ月・・・長かったような、短かったような。この辺りの体験を詳しく知りたい方は、どうぞこちらをご覧ください。

あれからすでに十数年が経過しました。治ってハッピーエンドという訳ではないのですが、副作用の少ない治療であったため、健康人となんら変わることなく、まったく普通に過ごせています。後遺症でご苦労されている人をたくさん知っているだけに、治療後の生活の質(QOL)がいかに大切か、このありがた味を身に沁みて感じています。

「がんの治療法で悩むのは一時、後遺症の悩みは一生」

前立腺がんと告げられてどうしようとうろたえている時は、がん細胞と縁を切りたいと言う一心で、治療後の生活の質までは考えが及ばないことが多いようです。

~たとえ明日、世界が滅びようと、わたしはリンゴの木を植える~(M・Luther)

明日のことはだれにも分かりません。一時は半ばあきらめかけた人生ですから、いただいた余生は、明日の心配をせず思い切り生き抜いてやろうと考え、今はいろんな活動と積極的に関わっています。「リレー・フォー・ライフ」、「ひょうごがん患者連絡会」、「腺友倶楽部」等々、たくさんあり過ぎて、予定が混乱し忘れることもしばしば。がんとの共生はともかく、今後は物忘れという「ご長寿病」とも仲良く暮らして行く術を考えねばなりません。

腺友倶楽部の活動について

「たかがIMRTに辿り着くだけで、なぜこれほどの苦労をしなければいけないのか」

私自身が治療を終えて一番に思ったことです。以来、WEB上で前立腺がんの医療情報の発信を続け、2014年に前立腺がん患者・家族の会「腺友倶楽部」を立上げ、2016年の春に「NPO法人腺友倶楽部」として、新たなスタートを切りました。「腺友」という言葉は腺友倶楽部の会員という意味ではなく、前立腺がんの患者仲間という意味です。

腺友倶楽部の活動の説明として、定款の中から主なものをピックアップしてみました。

(1) 前立腺がん患者・家族に対し必要な医療情報を提供し、相談および支援を行うこと

「腺友ネット」の「前立腺がんガイドブック」では、以前から前立腺がん情報を発信していました。新たに始めたのは「前立腺がんセミナー:患者・家族の集い」の開催です。従来行われていたセミナーでは、だれが話しても同じようなあたり障りのない話に終始したり、逆に、特定の治療法ばかりを強調し、病院のPRかと思うようなセミナーもありました。

私達が大切にしたいのはただこれ一つ・・・「For the Patients」。

まずは患者に役立つ情報かどうか、そうであればできるだけ詳しく、分かりやすく伝えていただくことを講師の先生にお願いし、すでに東京・大阪で計4回のセミナーを開催してきました。セミナー後には講師の先生を交えた懇親会も行っています。どんなに内容がすばらしいセミナーでも会場に収容できる人数には限りがあります。より多くの患者さんに見ていただきたいので、講演内容はビデオに収録し、後日ウェブでの配信を行っています。

また、会報「腺友倶楽部」の発刊を始めました。「腺友だより」では、毎号、会員の動向を取りあげ、親睦にも気を配っています。前立腺がんの患者さんには高齢者が多く、インターネットをしない人もたくさん居られるので、会報に講演内容を掲載し、全国のがん診療連携拠点病院にもお届けしています。少しでも多くの患者さんに見ていただくためには、内容はもちろんのこと、病院にお送りしても大切に扱っていただけるだけの体裁も必要であり、高齢者にも見やすいことを意識した編集となっています。昨年度は2回の発行でしたが、概ね評判も良く、広報誌としての手ごたえも感じているところです。

腺友倶楽部はオンラインでつながる全国組織です。患者数の多い東京圏、大阪圏では、セミナーの開催などで、腺友同士がリアルに顔を合わす機会もあるのですが、情報が欲しい、相談したいという思いは地方都市もおなじこと。先月(2017年3月)は、名古屋と福岡で「前立腺がんの学習会・相談会」を開催しました。今後は地方でのこのような機会も徐々に増やしていければと思っています。

(2) 前立腺がんの社会的認知度の向上ならびに啓蒙、啓発、広報活動を行う

2016年から全力をあげて取り組んでいる「Mo-FESTA(モーフェスタ)」という日本初のイベントがあります。近年、欧米豪では「Movember(モーベンバー)」というチャリティ運動が盛んになっています。「Mo(口髭)」 +「November」の合成語で、11月に一斉にひげを伸ばすことにより、男性の病や健康の啓発を行い、ご寄付を募る運動です。しかし、わが国には、ひげを生やすというのはまだまだ社会に抵抗があり、そのまま根付かせるのは至難の業でしょう。そこで、ひげに関するアイテムを身につけて走ったり、歩いたり・・・ユーモラスに男性のがん、メンズヘルスを「ひげ」グッズでアピールする「Mo-FESTA」を企画しました。これを判りやすく一言で説明するなら、「日本版Movember」であり、「男性版ピンクリボン運動」と言っても良いでしょう。

「Mo-FESTA」というのは私が勝手に付けた名称で、しかも日本初の催しですから誰にとっても初耳です。関係者のご理解を得るまでが大変で、「種まき」以前の「土壌づくり」に予想以上の時間を要してしまいました。そのせいもあり当初の予定より小規模となりましたが、それでも昨年度の参加者は2016年11月13日の大阪会場(大阪城公園)、2016年12月17日の東京会場(国営昭和記念公園)の両会場合わせて約500人。いずれの会場も好天気に恵まれ、「ひげ」と笑顔のあふれる楽しいイベントとなりました。多くの新聞、雑誌、TV等にも取り上げていただき、男性がんを啓発する新しいスタイルをお示しできたのではないでしょうか。

海外ではメンズヘルス・ウィークというのもあるようで、今年は6月12日~18日(父の日)までの一週間。期間中の金曜日(6/16)は "Wear Blue Friday" と名付けられ、あちこちで「ブルー」の服装が目立つとか。Mo-FESTAの「ひげ」と並んで、我国でも、青い服装の目立つ日が、いずれ近いうちにやって来るのではないでしょうか。